東京スローリー

時代とともに歩んできた老舗料亭の新たな発見 ― 割烹家 一直

美しく輝く漆塗りに「葵の御紋」。
それは、当店に受け継がれている「砥石」だ。ご主人は口を開いた。「先代によると、江戸時代、向島にあった水戸藩のお屋敷で使われていたものを譲っていただいたらしい」と。
この店には、長い歴史と格式が息づいているのだ。

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『割烹家 一直』。1878(明治11)年、当時は桜の名所として知られていた奥山(今の「花やしき」に隣接するあたり)で開業した。「桜豆腐」が名物だった大衆料理店から、大正から昭和初期の4代目の時代には100人以上の従業員をかかえる大料亭に変貌を遂げた。戦時下で休業した後、現在の場所で再開し、今日まで浅草花柳界では歴史と格式のあるお店として知られている。先々代の十一代目・市川團十郎や、数多くの文人墨客にも長年愛されてきた料理店なのだ。

「向島にあった水戸徳川藩のお屋敷から譲られたといわれる砥石
こじんまりしながらも気品を感じるお座敷。もちろん芸者さんを呼んだ宴席も可能

店内は、今も芸者さんが接待する宴席が開かれる空間。こじんまりとしたなかにも気品が溢れ、そこで七代目のご主人と大女将さんが笑顔で迎えてくれる。
2009年、現在の店舗への立替えを機に、地元のお客様が気軽に立ち寄れるようにと、予約なしのお昼の営業を開始した。新名物『鯛茶漬け』の誕生だ。まずは、活き締めの「お刺身」と小付けの「豚の角煮」で白飯を愉しみ、仕上げに薬味を加えて特製の出汁をかけて「お茶漬け」をいただく。鯛の風味を損なわない上品な味のポイントは、昆布だけで取った出汁と、薬味として使われる塩昆布だ。鯛本来の美味しさを引き出しながら、愉しめるように調整したという。
この新たな名物によって、顧客の裾野が広がった。社用接待だけではなく、家族や友人同士のお客様も増えているという。
最近ではSNSで知ったという海外からの観光客が「笑顔で召し上がっていただいて良かった」と頬を緩めるご主人。
数多くの著名人に長年愛されてきた名店の矜持が時代とともに進化している。

一枚板のカウンター。七代目のご主人・江原正剛さんは東京浅草組合の組合長も務める

ふくよかな笑顔で迎えてくれる大女将

小鉢として提供されるじっくりと煮込まれた『豚の角煮』
毎日通う常連客もいたという人気の『鯛茶漬け』

割烹家 一直

かっぽうけ いちなお
電話番号03-3874-3033
住所東京都台東区浅草3-8-6
営業時間11:30~13:30、17:00~23:00
休業日日曜・祝日
メニュー夜は予約のみ。
コースは1人15000円~(税・サービス別)